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2020.06.08 Monday

1958 TRIUMPH T110 修理作業報告 オーナー東京都W様

 トライアンフを愛しているなら遠くへ行くべきだ…誰の助けも受けず 己の力だけで ずっとずっと遠くへ旅をするべきだ…

 

 過去にレストア作業を施した東京都WさんのT110。停止中に追突され御覧のありさまだ…リア廻りどころか側面に前方とその殆どに事故の痕跡がある。路面以外の何かに接触するかハイサイドでもしない限りこのような状態には普通はならない… 

 

 総じて車体が華奢なトライアンフ、中でも1959年までのシングルダウンチューブは極端に剛性が低い 「…やってくれたなぁ…」ましてやこの年代の外装部品は殆どがデッドストックだから時間も費用も一筋縄ではいかない。何度も言うがブリティシュで事故は絶対に起こしちゃイケないんだ… 

 

 先ずは車体を分解し歪んだ車体を修正する事から始める。で、この年式ではロウ付けで部品の接合をする。なので、バーナーで炙り切り離したり接合する。決して電気溶接に頼ってはイケない…

 

 1950年代のトライアンフに於ける ボルト、ナットにワッシャーなどのファスナー類とは、実は高品質の要だ。プレーンワッシャーたった一枚でその車体全体の価値が変わってしまう…

 

 ブリティシュの部品は弱く激突すればほぼ間違いなく曲がる。このような新品の部品でも内容は1950年代と同じである事がブリティシュの基本、ごつくて重いにも関わらず 弱い…

 

 しかし、けっして悪いと短絡的に判断して欲しくない。フレーム剛性の低さとステアリングにこの頼りないフォークとで意外な効果を生む事になる…

 

 このステアリング辺りも華奢なつくりだ。幾分の違いはあれど1970年のユニットモデルファイナルまで続く。それは一体何を意味するのだろう…

 

 激しく追突されたリムはもう使えない。こうしてスポークと共に新調せざるを得ない…

 


 「スポークはステンレス製で…」彼はそう望んだが亜鉛メッキのスチール製を入れた。1958年モデルを所有するからには自ら品格を持つべきだ…

 

 そして塗装の後、やうやく車体の基本構成が完成した。ふにゃりと曲がった車体がこうして凛とする姿は頼もしい…

 

 ここでシングルダウンチューブフレームを見てみよう…1950年代とは、ブリティシュに限らずフレーム剛性は低い。ステアリングピボットから後方へ延びるメインシャフトはシート手前で垂直に降りダウンチューブサイドとボルトオンされる。

 

 …横から見ていると結構普通だが、前からみると「ほっせー…」パイプの径の細さが見て取れる。同年代のノートンやBSAとは明らかに設計思想が違っている…

 

 そして、後方から延びるシートレールと前方のダウンチューブとの結合部がここだ…

 

 これを見て皆さんは一体何を感じるんだろう?…「なぜ?…どうして?…何のために?…」現代の常識から逸脱出来ない皆さんの思考ではその答えは出ないんだ…

 

 この時代のぺトロールタンクは素晴らしい。理屈では説明のつかない豊潤なデザイン…イラストレーターを屈指する皆さんには悪いがこの車両はアナログ社会でなければ絶対に生まれなかったんだ…

 

 病んでいたパーツ達、こうしてペイントする事で蘇りつつある。事故で無機質になっていたT110が再び息づく事はやはり嬉しい…

 

そしてエンジンをかけた 「ズッズッワーーーーン…ズッワーーーン…ズンズンズンズン…」ユニット650に比べ豊和なサウンドがプリユニットモデルの特徴だ。けっして過度な自己主張をせず廻りとの調和を好む大人としての律義さが魅力だ。

 

 完成後、魚崎浜の陸事で継続検査を受けた。今どきのアグスタを見つけ…「アグスタ?…いいね…」と声を掛ける。どの時代も最先端なマシンは美しい…このT110が居た1958年、皆が寄ってたかってワンテンを囲んだ。それは正に垂涎の的だったって事、重ね合わせてみたんだ…

 

 「…ズンズンズンズン…」エンジンをしっかりと暖めた後、抜けるような青空を目指し試運転に出掛けた…

 

 「ズンズンズンズン…コチョン…ズンズンズンズン…」シングルダウンチューブのプリユニットモデルを走らせるなら、大人の走りを心掛けなきゃイケないよ。回転数を過度に引っ張らず、あくまでエンジンの求めるままに、スロットルをゆっくりと廻し開け、ゆっくりと戻す、これは1インチバーモデルの基本なんだ…

 

 セカンドギアからサードギアへと大~きくゆっ…たりと回転数を上げて「ズッズッズッズッズッズッ…」十分に上がり切ったところで可能な限り深くクラッチを握り…ギアを変える「コチョン…ズッズッズッズッズッズッ…」

 

 シートの後方に座りフットレストを踏む意識を持てば車体のシナリが分かる。「…グワァ~~~ーーン…グワァ~~~ーーン…」それは丁度作動性の低いサスペンションを補うかの如く豊かなクッション性を与えてくれる、それがまた快感なんだ…

 

  「ズバズバズバズバズバズバ!…」車体から伝わる振動はそこそこで、負けずに対処する必要はない。ハンドルバーから丁度の周波数で伝わるグッドバイブレーション…そのまま受け入れて走れば全て解決「We can be happy! 」だ…

 

 「…うっみーーーーっ!…」ヘルメットの中で叫んでしまう…「ズッウォーーーーーーン!…」結局 スロットル開けてるし…(笑)

 

 ナセルヘッドモデルでは、ハンドルバーの位置が強制され好きな位置には持ってけない。ところが、フットレストに足を置き シートの後端(ここ大事)に座り そのまま手を上から降ろしてみると絶妙な位置にグリップラバーがある。幾分絞り感のある英国調のトラディショナルな位置。一見強制されたかのようなこのポジションとは、この低剛性な車体の真価を発揮させる重要なファクターなんだ…

 

 スロットル一本で愛車を操りこうして潮風を受けてずっと走り続ける事…それって1950年代のモデル達には正しい事なんだ。クラッチを筆頭に頻繁な操作を考えて作られてはいない。トップギアに入れたまま、只々走る事が基本のモーターサイクルなんだ…

 

 大きなコーナーを見つけたなら、思い切って飛び込んでみよう…「…コクン…ズッドゥーーーン!…」この時サドルシートなら後端の上に、デュアルシートなら中央の段の上にお尻を4分の1乗せてみよう…肩から肘は絶対に力んでハンドルバーに力を入れないように…そしてフットレストに足の裏をいつもの三倍の意識でしっかり踏み込んでみよう…そのままスーッと自然にコーナーに入っていって、クリッピングポイント目掛けて  大胆に 思い切って倒し込んでみよう…

 

 「…シャーーーーーン…」これらの動作と同時に行うべきは頭の位置だ。必ず自分の頭の中心(あご)をぺトロールタンクとシートの継ぎ目に留めておく事だ!絶対にぺトロールタンクの中へ頭を入れてはイケない!「何が何でも頭は後ろだーっ!…」歯を食いしばってでも絶対にやるんだぞっ!

 

 「古いトラなんて こんなもんだよ…細い立てミゾタイヤだから倒しちゃあぶねーだろう?…」…不安だらけの旋回を君はワンテンのせいにしてばかりいた。「ズッドゥーーーン!…シャーーーーーン……ズバッズバッズバッズバッ!…」だが、今日はどうだ?曲がるだろ?怖くないだろ?自分の体重がしっかりと両輪に乗ってタイヤの接地感が 車体のシナリが ギュイーン!と感じるだろう?…立てミゾだって 四角いリアタイヤだって ワンテンだって 端まで使えるんだよ…

 

  現代人である皆さんはとかくフレームの剛性の高さやサスペンションの作動性を言いたがる。顧客側も業界側も高剛性を軸にモノを批判する。戦後から現代まで全て同じ尺度で判断してしまう事、それってなんて貧弱な発想なんだ…このシングルダウンチューブフレームは恐ろしい程に剛性が低い。直線を走るだけでシナリを見せる。だが、殆どがダートロードであった1950年代、モーターサイクルのセールスには快適な乗り心地が必ず求められた。衝撃吸収性能の低いタイヤにサスペンション、それだけで悪路を快適には走れやしないんだ…

 

 質素な前後のサスペンション、簡素なメインフレームにボルトオンされたリアフレーム、車体の剛性とはなんら関係のない只搭載されただけのエンジン…そして、あのリアフレームとダウンチューブとの細ーい結合部とは車体全体として快適な乗り心地を可能とする為の意図的な設計なんだ…

 

 現代の快適なアスファルトにもそれは息づいている。前述した適切な乗り方をマスターすれば、ワンテンは驚く程コーナーを旋回してくれる。それは低剛性なフレームがじわーっとしなり、サスペンションと共に車体全体を沈み込ませ、路面の挙動をいみじくも伝えてくれるから…特別な高速域でなくても一般道の交差点程度の速度でも、楽しく分かり易くしっかりと曲がる喜びを伝えてくれるんだ…

 

 …1950年代のトライアンフに乗っているなら己を磨く必要がある…このシングルダウンチューブモデルは只のトライアンフなんかじゃない、戦後からの指針となった名機であると同時にトラディショナル性を有する最後のモデルであって 正にトライアンフの中のトライアンフだ。それに応える為にも、その意味を理解し自分のエゴを抑え愛車の人生を最優先できる懐の豊かさを持ち合わせなきゃイケない。「あのワンテン乗ってる人…バイクもきれいだし服装もおしゃれ…走りも大人でイカシテルよね…」みんなが見ている、自身の振る舞いをも律し高めて行かなきゃならないんだ…

 

 こうしてワンテンに乗り遠くに辿り着くとひとりじゃないと悟って来る「ズンズンズンズン…コチョン…ズバッズバッズバッズバッ!…」道中の様々な出来事も、素晴らしい景色も、風の匂いも太陽の輝きも何もかもがふたりのモノだと気づいて来る。愛おしいワンテンと共に ふたりで走って ふたりでモノを見て ふたりだけの道を突き進む。一人で走るってのはふたりで走る事だと気づくんだ…


 人の力を借りて何が自分の人生だ、仲間の力に頼って何が俺様のトライアンフだ… 人の人生は一度切り 泣いても笑っても人生は一度きり 誰がなんと言おうとも本当の旅とは ひとりで走り出さなきゃ得られない。「やってみろっ!ひとりで走ってみろっ!君と彼女(愛車)ならできるって!…」 それは君達が近い将来 年を取ってバイクに乗れなくなった時、とてつもなく尊い想い出として蘇ってくるんだ…    2020/06/14 布引クラシックス 松枝   

過去の事故修理の例→コチラ 1958 T110 修理作業のプチ報告は以下です、是非ご覧ください。↓

その1その2その3その4その5その6その7その8その9その10その11その12

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