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2020.06.05 Friday

1958 NORTON 88 修理作業報告

 「Norton Heavy Weight twin Models 」ノートンツイン乗りにとってそのルーツを知る事は必要だ。497ccから823ccに至るまで何ら基本設計を変える事のなかった完成度の高いエンジン…対してプランジャーフレームからフェザーベットフレームへ、更にアイソラスティックシステムと、その都度更新された車体…優れた直進性能に優れた旋回性能…当時のエンジニア達が目指したモノとは他車を圧倒的にリードする卓越した動力性能に他ならない。

 

 1947年「Norton 7」がデビュー、そして1952年ドュプレックスフレームの「Norton 88」がラインナップに加わる。そのシックな装いから漂う高級感が特徴的だ…

 

 今回の「Norton 88」は既にドミレーサーへと変更されている。どの時点で日本へ持ち込まれたかは不明だが、複数の作業者による作業の痕跡が見られる…

 

 正直、私のところに来た状態とは正に目を覆いたくなる程に酷いものだった。ところが機関を開けてみると「…なるほど…」サーキットを走る為の優れた機械作りがそこにあったんだ…

 

 重く巨大なフライホイールは小径化&軽量化及びバランス取りを、強度の低いアルミ製のコネクティングロッドはキャリロ社製Hビーム型鍛造スチール製へと変更される…

 

 で、こうした作業とはサーキットコースを走る為の基本だが、そのやり方によってかなり特性を変えてしまう。豊富な経験と知識に多額の費用が必要な作業でもあって生半可な気持ちで出来るモノじゃない。

 

 カムシャフトのスプロケットにも本気度が伺える。これはタイミングのアジャストが可能なレース用のモノで歯数以内の微調整が可能となっている。但し、知識と経験と自信がなければ本来必要になるモノじゃない。

 

 1950年代辺りのエンジンの圧縮比は低く 6:1~7:1 辺りが多い。それをこのエンジンではおおよそ11:1 程度まで上げていた。だが、今回は一般道での使用を考慮し10:1 へと変えた。

 

 88のボアストロークは66X72.6mmの排気量は497cc、それを650用のシリンダーにより68X72.6mmの527ccへとあげられている。この30佞魯妊いぞ、如何なる場合に於いても最も効果的なエンジンチューニングとは排気量を上げる事だ。

 

 シリンダーヘッドも650SS用のツインキャブレター用に変更済みだ。大きなキャブレターを取り付ける為には必然、500ccクラスにこの口径のヘッドとは常にスロットルの全開域を狙う為のセオリーだ。

 

 だが、スプリングを用いるバルブシステムでは、ここに強力なフリクションが潜んでいる。そのひとつであるロッカーアームシャフト上のスプリングワッシャー。その少しの抵抗を生むスプリングワッシャーをブラス製のカラーで代用させている。些細な事でも塵も積もれば山となる…レーシングエンジンにとってその少しが欠かせない加工になるんだ。

 

 そして、強烈なフリクションの発生源がこのバルブスプリングだ。バルブのリフト量が増し更に高い回転数の時、スプリングのバネレートを上げなければ正確なバルブの開閉は出来なくなる。更に回転数が上げればバネも更に強力なモノが必要となる。その結果、エンジンへの抵抗は大きくなり増々性能への妨げになっていく…こうしたジレンマに悩まされるのがスプリング式のバルブシステムだ…ここにドゥカティのデスモトロミックシステムがあったならどれだけ馬力の低下を防げるだろうか…

 

 只、ポート研磨は単純に下手だ。削れば性能が上がると思うだけでは良いエンジンは作れない。混合気の流れを最終的にどう燃焼室に導けば大量の混合気を詰め込めるのか?…そこが見えてこない。


 だが、これがもし1950年代や1960年代に組まれたのなら話は変わる。吸排気系統の効率などまだまだ未解明な時代。ひょっとしてこの研磨の仕方もその時代の最先端だったのかもしれない…そんな時代感をリスペクトする事もこの世界の嗜みだと言える。

 

 1958年の88本来のキャブレターはアマル社製376シングルで口径は1インチだ。そしてこのヘッドの650SSは376のツインで口径は1-1/16インチ、更に1967年から930の30ミリのツインとなる。で、この「Norton 88」ではそのまま930と来ているのかもしれない。全開域を常用するサーキットコースに合わせれば決して大きくもないが、一般道走行用としては異常に大きく扱い辛くなる事は明白だ。

 

 そしてここからが更に本気度を上げる仕様の話だ。もう皆さんならご存知だろう…英国はクワイフ社製のレーシング5スピードギアだ。特に500ccクラスの低トルクモデルを最低限戦えるモノにしたいなら何を差し置いてでも真っ先に取り付ける必要のある最大の武器、1−2−3−4−5 このギア比の設定が走りの性格を決定づけると同時にその明暗を分けてしまう。

 

 で、クワイフ社の5スピードギアには三種類の1速ギアが用意されているが、この「Norton 88」にはギア比が最も高いロード用が選択されている。

 

 サーキットコースの場合、優れた一次減速装置なくして走れない。これはご存知高い信頼性を持つ英国ボブニュービーレーシング製のベルト&クラッチキット。一般道とは次元が違う程に激しいサーキット走行に於いて絶対的な信頼性を提供してくれる。

 

 そしてエンジンをかけた…「ズズッ…ズバァーン!…ズゥーーーーーーン…ズッワーーン!ズッワーーン!」その音はトラディショナルなノートンツイン系と一線を画す正に走る為のサウンドだ…

 

 「ズッバァァーーーーンッ!…カコン…ズッバァァーーーーンッ!」随所に古典的な部分が残るこうしたエンジンは現行車のようにいきなり走らせる事は難しい。エンジンの回転数を3千回転として走り出し、次第に3.5千回転、帰る頃にはマックス4千回転と決めている。なのにこのエンジンは5千回転を超えて更に上を目指して回りだそうとする…

 

 「ズワァァーーン!…カコン…ズワァァーーーーン!…カコン…ズワァァーーーーーーーーン!」クワイフ社製の5スピードギアのつながりが実にいい。スタンダードよりも遥かに小さいレシオは有効で、ギアを上げた途端からすぐさまパワーバンドの手前に落ちて来る。「…ん?いいよなぁ…」マシンが前へ前へと進み自然と頭を伏せてしまう…

 

 クリッピングポイントを抜けてぇ!コーナーを立ち上がってぇ!「…ズッ、ウォーーーーーーーーーン!…コンッ…ズッウォーーーーーーーーーン!…」 キャブレターのツキもいい、ギアのつながりもいい、けど駆動系はどうなんだ…「心配するな、君は只前を向いて走ってればいいんだっ!…」ボブニュービーレーシング製ベルトキットがそう言ってくる…

 

 コーナーのクリッピングポイント目掛けてマシンを寝かせるとぉ!「…シャァーーーーーン…ズゥーーーーン…」車体の変化と同時に、なんとサスペンションが正しい位置に倒れて行くじゃないか!…ステアリング軸が正しく保持されているからフォークも正しく伸縮する、路面からの衝撃をスイングアームが正しく直角方向に受けている…「いやぁ…これは凄いぞ!この時代の設計でこんなことが起こるのか?…」


 「ズッドゥーーン……ズッウォォーーーーーーーン!…」コーナーに入ってから脱出するまで、本来乗り手が求めているモノは常に変化する接地感と前後のバランスの正しさに他ならない。それが多くのブリティッシの場合低剛性故に正しく伝わらない。だがこの「Norton 88」は多くの情報を正確かつシャープに私に伝えて来るんだ…

 

 このフェザーベットフレームとは、ステアリングから始まる一本の太いパイプが一切のつなぎ目なしに再びステアリングに戻り構成される。当時としては過剰だと言われかねない程に剛性が高くなっている。四輪車でも二輪車でも高いボディー剛性がなければサスペンションは設計通りに正しく機能しない。そうした事が1940年代の設計思想に既に織り込み済みだなんて…

 

 モーターサイクルを楽しく旋回させるためには前後の正しい重量配分が絶対だ。この「Norton 88」は軽く作る事を心掛け、更にその重量配分にも気を配った。実測値としてフロント77kgのリア76kg トータル153kg 車体としてほぼ50:50 とした。そしてライダーを乗せた時の静的重量配分も同じく50:50だ。この話を聞いて何も分からないならそれでもいい。しかし、この重量配分の実現は旋回中の安定性に絶対的に影響を及ぼす。そして走行中の動的重量配分50:50とは、ライダーの頭がギアボックスのメインシャフト上にある時なんだ…

 

 車体を楽しく操りたいとする皆さんには是非理解して欲しい。今言った50:50の重量配分とは、皆さんのの頭が数センチ移動しただけで途端に崩れてしまう。「そんな事ねーだろう…オーバーだなぁ…」そう皆さんは思うかい?だが本当だ。更に数センチ、握りこぶしひとつ分もずれりゃもう旋回しない領域に入ってしまう。この車体の場合にはお尻を出来るだけ後ろに持っていき、頭を常にメインシャフト上から外さない事が必須。コンパクトな車体とは裏腹にポジショニングは相当遠い。手足の短いアジア人である皆さんが、フェザーベットフレームの優秀性を嗜む為には体格的な不利を克服するそうした努力がなければ成り立たないんだ。

 

 で、この「Norton 88」の最初の試運転では「こんなんで走れるか!…」危険な状態にすぐさま引き返した。その後走るも「…こりゃダメだ…」「こっちも気に入らない…」「あれがもう数ミリ…」「キャブのジェットが…」と、今回はなんと4度もの試運転を行った。ハンドルバーに、スロットルに、フットレストに、シフトレバーに、シートの位置に…どれもこれも安全で快適な操作が出来やしない。それでも「この野郎、絶対にやってやる!…」走っては直す、走っては直す、正にサーキットのピット状態だった…

 

 そして完成した今は誰が乗ってもそこそこ楽しく走れるはずだ。ポジションのきつい車両の場合、一般車両よりも更に安全性が担保されなければならない。そして次が快適性で外観はその後「安全に!楽しく!感性豊かに!」これが布引流レーシングコンセプトだ。

 

 「Norton 88」とは、本来おとなしい走りを見せるモデルだ。鼓動感もそこそこあって堅実に楽しく走ってくれる私好みのモデル。だがクランクシャフトからなにからエンジンを根本的に加工する事により88としての痕跡は断たれてしまう。それは速く走る為の別物、鼓動感や味などどうでもいい。軽量で低フリクションとなったクランクシャフトをぶん回しても、超高剛性なコネクティングロッドが何処までも保持し全くの自信を持たせてくれる異次元の世界…そうなる事も事実なんだ… 軽量な車体とハイパワーなエンジンを得た今、650クラスのインを突いて抜き去る事も可能な迄になっている…

オーナーのTさんに願いたい。貴方がどんな使い方をするか私は知らない。例え交差点を走る時にも、街中のコーナーでも、或いは素敵な信州の山々を走る時にでも、この変貌を遂げた愛する「Norton 88」をずっとカッコよく走らせてやって欲しい。抜群のルックスを持つカフェレーサーを華麗に走らせる為の極意とは、いかなる場合にも50:50を極め続けるんだと言う事を忘れないで欲しいんだ…   2020.06.07 布引クラシックス 松枝

 

参考記録

試運転走行距離   430km(一般道のみ)

行先        兵庫県、京都府の山々

使用ガソリン           27.2L(プレミアムガス)

燃費                       15.8km/L

燃料タンク容量   約10L

リザーブ      なし

巡行航続距離    約130km

(走行地図今回ありません。→ヤフールートラボが配信停止の為、現在模索中です。)

 

作業のプチ報告 (作業の詳細はコチラです↓)

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